住宅展示場では分からない壁材の本当の役割

はじめに
住宅展示場に足を運ぶと、広々としたリビングや大きな窓、きちんと整えられた家具が目に入ります。
全体的に明るく、空気まで心地よく感じられることもあります。壁はきれいに仕上げられ、ぱっと見たところ傷もありません。
けれど、そこで見ている壁は「完成した瞬間」の姿です。
その家で10年、20年と暮らしたとき、壁がどんな働きをしてくれるのかまでは、なかなか想像できません。
住宅展示場は、第一印象を確かめる場所です。
でも、暮らしを本当に支える力は、展示場では見えにくいところにあります。
今回は、自然素材として知られるシラス壁を手がかりに、住宅展示場では分からない壁材の本当の役割について考えてみたいと思います。
壁は「背景」ではない
多くの人にとって、壁はインテリアの背景です。
クロスの色や柄を選ぶことはあっても、壁そのものの働きまで意識することは、あまり多くないかもしれません。
しかし、壁は家の中で最も面積の大きな部分です。室内の空気や湿度、光の広がり方、音の響き方まで、実は壁が深く関わっています。
展示場では空調が整い、においもほとんどありません。
だからこそ、壁そのものがどんな働きをしているのかが見えにくくなっています。
実際の暮らしでは、料理の蒸気、入浴後の湿気、部屋干しの洗濯物、玄関に置いた靴のにおいなど、空気の状態は毎日変わります。
その変化に対して、壁が何もできないのか、それとも静かに支えてくれるのか。
ここに、住み心地の差が生まれます。
シラスという素材の正体
シラス壁の「シラス」とは、九州地方に堆積している火災流噴出物のうち、主に約2.7万年前の姶良カルデラの噴火によって発生した火砕流が積もってできたもので、白っぽい砂のような見た目をしています。
このシラスを主原料に、自然素材のみで仕上げた壁がシラス壁です。
ビニールクロスのように工場で均一につくられるものとは違い、シラス壁は職人が現場でコテを使って塗り上げます。
そのため、同じ材料でも、家ごとにわずかな表情の違いが生まれます。
この「自然素材であること」そのものが、シラス壁の働きの土台になっています。
空気を整えるという役割
シラスの粒には、目に見えないほど小さな穴が無数にあります。
この構造によって、においの原因となる物質や、空気中の化学物質を吸着する性質があります。
新築の家に入ったとき、少しツンとしたにおいを感じた経験はないでしょうか。
展示場では気にならなくても、実際の暮らしが始まると、家具や日用品からもさまざまな成分が出てきます。
シラス壁は、それらを香りでごまかすのではなく、静かに吸着し、空気を整える方向に働きます。
この変化は派手ではありませんが、暮らしていく中で少しずつ感じられるものです。
湿気と付き合う壁
日本の住まいは、湿気との付き合いが欠かせません。
梅雨や雨の日は室内がじめじめし、冬は暖房で乾燥しがちです。
シラス壁は、湿気が多いときには吸い、空気が乾くと少しずつ放出します。まるで壁が呼吸しているような動きです。
たとえば、玄関。
雨の日に濡れた靴を置いたとき、その湿気がどこへ行くのかは、展示場では分かりません。
壁が湿気とどう向き合うかは、実際の暮らしの中で差が出る部分です。
火に対する安心感
シラスは火山噴出物からできた素材です。
もともと高温にさらされて生まれているため、燃え広がりにくく、有害なガスが発生しにくいとされています。
展示場で火災のことを意識する人は多くありません。しかし、壁材の性質は、万が一のときに家族を守る要素のひとつになります。
時間とともに見えてくる違い
展示場の壁は、いつも「新品の状態」です。
ですが、実際の家では、日差しが当たり、家具が触れ、子どもが走り回り、年月が積み重なります。
ビニールクロスは、年数が経つと継ぎ目が浮いたり、日焼けで色が変わったりすることがあります。
貼り替えが必要になるケースも少なくありません。
一方、シラス壁は、大きなはがれが起きにくく、部分的な補修も可能です。
新品のきれいさよりも、「時間を重ねたときの落ち着き」が残りやすい壁だと言えます。
壁が気持ちに与える影響
壁の質感は、思っている以上に人の感覚に影響します。
シラス壁は光をやわらかく受け止め、強く反射しません。そのため、部屋全体が落ち着いた印象になります。
つるつるした壁と、少しざらっとした壁。触れたときの感覚の違いも、無意識の安心感につながります。
シラス壁の弱点も知っておく
良い点ばかりではありません。
・初期費用がクロスより高め
・職人の技術によって仕上がりに差が出る
・強くこすると粉が付くことがある
自然素材だからこそ、扱い方には少し注意が必要です。すべての家庭に合うとは限りません。
大切なのは、「人気だから」ではなく、「自分たちの暮らしに合うか」で考えることです。
まとめ|展示場では見えないものを見る
住宅展示場は、家の第一印象を知る場所です。
でも、本当に大切なのは、その家が時間とともにどう働くかです。壁は毎日、空気に触れ、湿気を受け止め、光をやわらげています。
その働きは目立ちませんが、暮らしの土台を静かに支えています。展示場を訪れたら、壁を眺めるだけでなく、
深呼吸をしてみる。
そっと触れてみる。そして、10年後、20年後の暮らしを想像してみてください。
壁は、ただの背景ではありません。家族の毎日を支える、大切な存在なのです。
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