地球にも人にもやさしい!シラス壁が拓く新しい家づくり
はじめに
家を建てるとき、どんな壁にするか、考えたことがありますか?塗り壁、クロス、タイル、ブロック……たくさんありますが、最近「シラス壁」という素材が注目されています。今回は、シラス壁って何か、家づくりにどんなよいことがあるのか、注意すべきことは何か、他の壁と比べてどう違うか、などをていねいに説明します。
シラス壁とは何か
まず「シラス」って何でしょう?これは、2万5千年前、現在の鹿児島湾北部を火口とする姶良カルデラの大噴火によって発生した火砕流が堆積した、自然素材です。
シラスはざっと見て、非常に細かい粒がいっぱいある火山噴出物で、シラス壁は、このシラスを壁の素材として使った「塗り壁」のことです。漆喰(しっくい)や土壁のように、壁全体を塗るタイプです。
シラス壁のいいところ
シラス壁が最近人気な理由は、「地球にやさしい」「人にやさしい」という点がたくさんあるからです。具体的にどんなメリットがあるか、分かりやすく見てみましょう。
①調湿性が高い
家の中にある「湿気」、たとえばお風呂上がりや梅雨、料理中の蒸気など。湿気が多いと壁にカビが生えたり、木がいたんだりします。逆に乾燥しすぎるとノドをいためたり、静電気が起きやすくなったり。
シラスは、湿気が多いときは湿気を吸い、乾燥したらその湿気を放つ、つまり「呼吸する」ような性質があります。これを「調湿性」と言います。だから、室内の空気が比較的安定して、すごしやすくなるんです。
②においを吸着・分解する力
料理のにおい、たばこのにおい、部屋干しの洗濯物の臭いなど、家の中にはいろんなにおいがあります。シラス壁はその表面の微細な穴で、においの元となる悪い物質(揮発性有機化合物など)を吸着したり、分解したりします。これによって、空気がきれいになることが期待できます。
③断熱性がある
シラスは熱の伝わりを抑える性質を持っており、部屋の温度をできるだけ一定に保ってくれます。夏は外の熱気を室内に伝えにくく、冬は暖房で温めた空気を逃しにくい。つまり、「夏涼しく、冬あたたかい」空間づくりに役立ちます。そうすると、冷暖房のエアコンなどを使う時間や力が少なくてすむので、省エネになります。
④自然素材だから環境にやさしい
多くの壁材には、石油由来のプラスチックや化学物質が含まれていたり、製造するときにエネルギーをたくさん使ったり、ゴミになったときに問題があるものがあります。シラス壁はシラスを主な材料とする自然素材です。採掘して、天日ほしで処理して、塗れるかたちにするだけなので、化学物質を含まず、作るときのエネルギーやが少ない壁材です。
さらに、長持ちすることや、最終的に土にかえせることも期待できるので、「循環型」の家づくりにぴったりです。
⑤快適で健康的
前のメリットとも少しかぶりますが、湿気・カビ・においがコントロールされた家は、住む人の体にもいい影響があります。アレルギーやぜんそくを持っている人は、湿度やホコリ、カビが悪化因子になることがあります。シラス壁の家は、そうした悪い環境を減らせる可能性があるので、子どもにも、お年寄りにもやさしい家になります。
どんなふうに家づくりに取り入れるか
「いいことが多いんだな」と思っても、ただ「壁をシラスにすればいい」というわけではありません。いい仕上がりにするためには工夫がいります。
シラス壁の家に住んでいる人の感想を聞くと、よく耳にするのが「空気が違う」という言葉です。
たとえば、あるご家庭では「友人が遊びに来ると、部屋の空気が澄んでいると言われる」とのこと。別の家庭では「梅雨の時期でもベタつきが少なく、洗濯物の部屋干し臭が気にならない」という声もあります。
こうした感覚的な部分は、数字ではなかなか表せません。でも実際に暮らすと、毎日の快適さに直結するものです。
①どこに使うかを考える
家全体の壁全部をシラスにすることもできますが、部分的に使うこともできます。例えば、リビングの壁一面だけとか、寝室とか天井、子ども部屋の壁の一部など。コストや仕上げ時間を考えると、ポイント使いが無駄が少ないです。
②下地(したじ)と仕上げ方法
シラス壁を塗る前の「下地」が重要です。木の構造、石膏ボード(せっこうボード)、コンクリートなど、どの素材の上に塗るかによって準備が変わります。下地がしっかりしていないと、シラスがはがれたり、ひびが入ったりすることがあります。
また、塗り方にもコツがあります。下地に合わせて適切な施工をすることで、機能を発揮するだけでなく、美しく仕上がります。
③メンテナンス(手入れ)
シラス壁は、長くきれいに保つには少し手間がかかります。汚れがついたらやさしくこする、水拭きするなど。ただし、水に弱い部分もあるので、濡らしすぎない、強くこすらない配慮が必要です。
また、日常の掃除だけでなく、年に一度、ほこりを除去したり、壁の状態を見てひび割れやはがれがないかチェックすると良いです。
④コストと時間
シラス壁は、普通のクロス壁(ビニールクロス)と比べて、材料や塗る手間がかかることが多いです。塗る職人の技術も重要なので、費用が高くなることがあります。また、乾燥に時間を要することがあり、天気や季節によっては工期が長くなるかもしれません。
ただし、長い目で見れば、光熱費が安くなること、健康被害のリスクを下げること、寿命が長いことなどで、初めのコストを回収できることがあります。
他の壁材と比べてどう違うか
シラス壁とよく比べられる壁材をいくつか見て、「どこがどう違うか」を整理します。
壁材の種類 | メリット | デメリット | シラス壁との差(比較) |
---|---|---|---|
ビニールクロス(クロス壁) | 費用が安い、いろんなデザインがある、施工が早い | 湿度やにおいの変化に弱い、化学物質を含むものがある、寿命が短いことも | シラスは調湿性やにおい吸着性で優れ、自然素材なので健康・環境面で強みがある。しかしコスト・施工時間ではクロスのほうが有利なこともある。 |
漆喰(しっくい)壁 | 自然素材、殺菌性がある、調湿効果が強い | 塗るのが難しい、ひび割れしやすい、白い色が汚れやすい | 漆喰は他素材と混ぜて使うことが多いが、シラス壁は色やテクスチャを工夫しやすい。漆喰より柔らかい風合いになることもある。 |
モルタル壁/コンクリート壁 | 頑丈、耐久性が高い、防火性能など強い | 熱や湿気を通しやすい、重い、見た目が冷たくなることがある | シラス壁は軽くて温かみがあり、湿度調整に優れる点で差がある。強度や防火ではモルタル等には届かない部分があるので併用も考える。 |
木材・合板などの木壁 | 自然な感じ、温かみがある、加工しやすい | 湿気・シロアリ・腐りなどが心配 | 木壁は暖かく感じるが、湿気のコントロールやにおいの吸着ではシラス壁のほうが有利。木と組み合わせて使うことで、お互いの欠点を補える。 |
実際にシラス壁の家を建てた例
実際にシラス壁を取り入れた家では、どう暮らしが変わったか、どんな工夫がされたかという話もあります。
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九州のある家庭では、リビングの一面をシラス壁にして、木の梁(はり)を見せるデザインにしました。湿気がこもる梅雨の時期でも、壁がぐっと湿度を吸ってくれるので、エアコンをつけずに済む時間が増え、「冷房代が減った」と言っています。
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ある家では、壁と天井にシラスを使い、においが気になる部屋干しの洗濯物をよくするようになったら、カビ臭さが少なくなったとのこと。以前はすぐに壁紙が傷むので貼り替えが必要だったが、シラス壁にしてからは数年たってもそれほど傷みが目立たないそうです。
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動物を飼っている家では、ペットのにおいにも敏感になる人がいます。そういう家でもシラス壁を使ったところ、「においが以前ほど強く残らない」「空気が自然にさわやかに感じる」という感想があります。
注意すべきこと・デメリット
いいことばかりに見えるシラス壁ですが、「これだけで完璧」というわけではありません。家づくりで後悔しないために、デメリットや注意点も押さえておきましょう。
①費用が高めになる
材料そのものの値段、施工する職人の手間、乾燥させる時間などが普通の壁よりかかることがあります。特にデザインや色、厚さ、下地の処理などにこだわると値上がりします。
②仕上がりのムラやひび割れ
塗る厚さが均一でなかったり、乾燥中の温度・湿度が急に変わったりすると、色ムラができたり、下地の状態などによってもヒビ割れができることがあります。素人がやるより、経験のある職人に頼む方が失敗が少ないです。
③メンテナンスがちょっと手間
汚れがつくと落ちにくいものもあります。例えば、油、子どもの落書き、家具が触れるところなど。そういう部分は別の素材を使ったり、ところどころクリアコート(透明の保護の膜)をつけたり、塗り替えをしやすい設計にしたり、部分補修できるようにしておくと安心です。
④環境条件による制限
湿度が非常に高い地域、または突然の雨の打ち込みがある場所などでは、シラス壁だけでは十分に守れないことがあります。屋根のひさし(庇/ひさし)や外壁との組み合わせ、水はけのいい基礎など、家全体の設計が重要です。
まとめ:地球にも人にもやさしい家づくりとは
シラス壁を使う家づくりは、湿度やにおい、温度のコントロールが自然にできて、健康的で快適な住まいになります。また、自然素材であることから、地球環境や資源のムダ使いを減らせる可能性も高いです。
もちろん、コストや手間、耐久性などの課題もあるので、「どこまでこだわるか」「予算はどのくらいか」「家のある場所・気候・設計との相性」などをよく考える必要があります。
もしあなたが将来、自分の家を建てるなら、あるいは家を改築するなら、シラス壁を選択肢のひとつとして頭に入れておいてほしいです。そして、壁ひとつで住み心地が大きく変わることを実感してほしいと思います。
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