「回遊の家」
有限会社 HIRO建築工房
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1. 自然素材に対する思い
近年 建築は環境と常に考える必要性が高まっている。その中で、太陽光発電パネルや気密性能、断熱性能といった建築に付加する設備的な内容が求められ、数値的な判断によって環境がとらえれている傾向にある。一方で、日射や通風といった自然環境に近づきながら、元来からある快適な環境を手に入れることに、まだまだ可能性を感じる。人を取り巻く家の部位が部品となり、近代化 工業化され進化していった。しかし、もう一度振り返り 自然素材を使用することで、違う視点での価値観を感じられるのでは。施工技術による仕上がりの違い、表情の違い。それこそ、製品が一番苦手とするところである。
壊れにくくなっても飽きてしまって解体される家。経年変化は、味わいを持たせ、飽きさせず使い続けることを思わせる。そのことが、住宅寿命を伸ばし、サスティナブルへつながっていく。そんな橋渡しの可能性を自然素材は持っていると思う。
2. 作品データ
作品名:回遊の家
建設場所 : 群馬県前橋市
建築面積 : 86.27㎡
延べ床面積 : 152.23㎡
竣工年月日 : 平成26年7月
3.作品コンセプト
両親から実家を引き継ぎ、息子夫婦が家族4人のために建替える計画。昭和40年代に開発された大きな住宅団地の一角。近隣住宅には、同世代は外に出て行ってしまい、若者世代はほぼ残っていない状況。この団地に住むよさを見直し、住み続け たくさんの方にこの団地のよさを知って欲しい。そして、出来れば自分の子供に住み続けてほしいと計画が始まった。しっかり区画された広めの敷地であったが、庭など前面家の真裏などになってしまい影となり、隣家との交流は少ない。整った正方形の区画は、隣接する家同士が平行になってしまうため、近距離でありながらも閉鎖的であった。本計画では、あえて角の無い平面計画とすることで、隣地接点部に小さな庭が出来ると考えた。このような庭が、近隣に増えることで団地全体に豊かな庭の余白が増える。その庭は、景観のみでなく、近所のコミュニティーのきっかけになり、団地の活性化につながると考えた。
この建物形状を活かし、平面計画では回遊性を重視した。回遊性のあるプランは、空間がひとつながりとなり広がりを持つともに、最短の作業導線となる合理的な家になった。
内部と外部の中間領域として、サンルームを作った。リラックススペースとして明るい室内をかなえると同時に、物干し場としても大活躍である。北風の強い群馬では、冬場の物干し環境を考えることは必要条件である。
4.採用材料・仕上げ
そとん壁 (三条大波仕上げ)
5.採用の工夫
北側ファサードの外観。採光上 開口部が少なく無表情になる壁面。
そとん壁を塗ることで、自然な質感が大きな面を威圧的にならずカバーする。
また、横波の陰影が 時間に伴って表情を変化させる。コーナーが無い平面も効果を増し、光が回り込むことで、より表情を豊かにする。
6.本作品におけるシラス壁の役割
■この家の顔であり、表情である。
時間変化も重要だが、経年変化も自然素材ならではの良さがある。
■サンルームは、光が強く通常の内壁材では劣化が激しくなる。外壁に使用できるシラスを採用することは日差しなどの劣化に強く、内壁的な表情も作り出せることで、内部と外部の中間領域ができ、室内と外部をつなぐ場所となった。
7.シラス壁への思い
設計者となる以前、現場監督を10年していた。作られるもののクオリティーをそろえるため、常に意識と苦労をしていた。同じものができる期待と安心。しかし、進んでいく職人、技術者不足。同クオリティーを確保するために、規格、既製品を考えることが増えた。工業化や生産システムが確立した現在、同じクオリティーが手に入れやすくなった。反面、異なるクオリティーに価値や味を感じる。その場所やその時にしかできない、出来上がった表情に価値を感じる。また、今後減っていく職人のため、作れなくなっていく貴重な仕上げ表情。後世に存在した職人技術として残していく価値がある。
お施主さん、設計者、職人さんがその壁を塗った瞬間や思い出を残す 「記憶装置」であると考える。
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